アイノフロー吸入用800ppm
添付文書情報2019年07月改定(第1版)
商品情報
- 習
- 処
- 生
- 特生
- 特承
- 毒
- 劇
- 麻
- 覚
- 覚原
- 向
- 禁忌
- 生命維持のために右-左シャントに完全に依存している心疾患を有する患者[右-左シャントの血流を減少させることにより血行動態が悪化し、致命的になるおそれがある]。
- 効能・効果
- 1). 新生児肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善。
2). 心臓手術の周術期における肺高血圧の改善。
(効能又は効果に関連する注意)
5.1. 〈効能共通〉肺低形成を有する患者における安全性及び有効性は確立していない。
5.2. 〈効能共通〉重度多発奇形を有する患者における安全性及び有効性は確立していない。
5.3. 〈新生児肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善〉本剤は臨床的又は心エコーによって診断された、新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全患者にのみ使用すること。
5.4. 〈新生児肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善〉先天性心疾患<動脈管開存・微小な心室中隔欠損又は心房中隔欠損は除く>を有する患者における安全性及び有効性は確立していない。
5.5. 〈心臓手術の周術期における肺高血圧の改善〉在胎期間34週未満の早産児における安全性及び有効性は確立していない。
5.6. 〈心臓手術の周術期における肺高血圧の改善〉術前投与時の安全性及び有効性は確立していないため、リスク・ベネフィットを勘案し、本剤適用の要否を慎重に判断すること。
- 用法・用量
- 〈新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善〉
・ 新生児肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善の場合、出生後7日以内に吸入を開始し、通常、吸入期間は4日間までとする。なお、症状に応じて、酸素不飽和状態が回復し、本治療から離脱可能となるまで継続する。
・ 本剤は吸入濃度20ppmで開始し、開始後4時間は20ppmを維持する。
・ 酸素化の改善に従い、5ppmに減量し、安全に離脱できる状態になるまで吸入を継続する。
〈心臓手術の周術期における肺高血圧の改善〉
・ 小児:本剤は吸入濃度10ppmで吸入を開始し、十分な臨床効果が得られない場合は20ppmまで増量することができる。
・ 成人:本剤は吸入濃度20ppmで吸入を開始し、十分な臨床効果が得られない場合は40ppmまで増量することができる。
・ 症状に応じて、血行動態や酸素化が改善し、本治療から離脱可能となるまで継続する。なお、心臓手術の周術期における肺高血圧の改善の場合、吸入期間は7日間程度までとする。
・ 離脱の際には、血行動態及び酸素化の改善に従い、5ppmまで漸減する。その後さらに漸減し、安全に離脱できる状態になるまで吸入を継続する。
(用法及び用量に関連する注意)
7.1. 〈効能共通〉本剤を用いる場合は、専用の一酸化窒素ガス管理システム(アイノベント、アイノフローDS又はアイノベント/アイノフローDSと同等以上の性能を有する装置)を用いること〔14.1.2、14.1.3、14.2.4、14.2.6参照〕。
7.2. 〈効能共通〉小児では本剤の吸入濃度は、20ppmを超えないこと(吸入濃度が20ppmを超えると、メトヘモグロビン血症発生及び吸入二酸化窒素濃度増加(吸入NO2濃度増加)の危険性が増加する)、成人では本剤の吸入濃度は、40ppmを超えないこと(吸入濃度が40ppmを超えると、メトヘモグロビン血症発生及び吸入二酸化窒素濃度増加(吸入NO2濃度増加)の危険性が増加する)。
7.3. 〈効能共通〉本剤の投与を急に終了又は中止すると、肺動脈圧上昇又は酸素化の悪化がみられることがある。肺動脈圧の上昇又は酸素化の悪化は本剤に反応しない患者においてもみられることがある。
7.4. 〈新生児肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善〉本剤吸入開始時の吸入酸素濃度(FiO2)は1.0である。
7.5. 〈新生児肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善〉吸入開始後4時間以降に動脈血酸素分圧(PaO2)>60mmHg又は経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)>92%になれば本剤の吸入濃度を5ppmに減量していく。
7.6. 〈新生児肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善〉FiO2を減量し、FiO2=0.4~0.6でPaO2>70mmHgになるまで本剤の吸入濃度は5ppmで維持する。
7.7. 〈新生児肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善〉離脱の際は、臨床的に安定していることを確認し、本剤を徐々に減量しながら慎重に終了する(終了前にはFiO2を0.1増量してもよい)〔8.3、8.4参照〕。
7.8. 〈新生児肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善〉投与中止の際は、本剤の吸入濃度を1ppmまで徐々に減量すること(1ppm投与中、酸素化に変化がみられない場合はFiO2を0.1増量のうえ、本剤を中止し、患者の状態を十分に観察し、酸素化が悪化する場合は本剤を5ppmで再開し、12~24時間後に本治療の中止を再考すること)。
7.9. 〈心臓手術の周術期における肺高血圧の改善〉本剤の効果は速やかに発現し、投与後5~20分で肺動脈圧の低下及び酸素化の改善がみられる(用いた用量で十分な効果が得られない場合、投与後10分間以上あけて、増量することができ、本剤投与後30分間経過し、血行動態や酸素化の改善がみられない場合は、本剤の投与中止を検討すること)。
7.10. 〈心臓手術の周術期における肺高血圧の改善〉離脱の際は、本剤の吸入濃度を1ppmまで徐々に減量し、1ppmで血行動態及び酸素化が安定している場合、12時間毎に離脱を試みること。
- 合併症・既往歴等のある患者
- 8.1. 〈効能共通〉本剤は、肺高血圧の治療に十分な経験を持つ医師が使用し、投与に際しては緊急時に十分な措置ができる医療機関で行うこと。
8.2. 〈効能共通〉本剤の効果を最大限に発揮するため、十分な呼吸循環管理等を行うこと。
8.3. 〈効能共通〉離脱の際には、吸気中NO濃度、吸気中NO2濃度、PaO2、血中メトヘモグロビン(MetHb)濃度等のモニタリング項目の評価を参考にすること〔7.7参照〕。
8.4. 〈新生児肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善〉離脱の際には、心エコー検査による右-左シャント消失の確認等、血行動態の評価も参考にすること〔7.7参照〕。
8.5. 〈新生児肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善〉本剤の使用によっても酸素化の改善が認められない場合は、体外式膜型人工肺(ECMO)等の救命療法を考慮すること。
8.6. 〈心臓手術の周術期における肺高血圧の改善〉本剤による治療は、循環動態及び酸素化の緻密なモニタリング下で行うこと。
9.1.1. 在胎期間34週未満の患者:脳室内出血、肺出血があらわれることがある〔17.2.1参照〕。
- 相互作用
- 10.2. 併用注意:低酸素性呼吸不全の治療に用いられNOを供給する薬剤(ニトロプルシドナトリウム、ニトログリセリン、スルフォンアミド)[血中MetHb濃度が増加し血液の酸素運搬能が低下する可能性があるので、併用する場合、血中MetHb濃度を十分観察すること(相加作用により血中MetHb濃度を増加させる)]。
- 副作用
- 次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
- 重大な副作用
- 11.1. 重大な副作用
11.1.1. メトヘモグロビン血症(頻度不明)。
11.1.2. 徐脈(0.9%)。
11.1.3. 心停止(0.4%)。
11.1.4. 重篤なビリルビン血症(0.4%)。
11.1.5. 気胸(0.4%)。
- 11.2. その他の副作用
1). 一般全身障害:(1%未満)発熱、全身性浮腫、多臓器不全、周産期障害、過量投与、*炎症。
2). 心臓・血管系障害:(1~10%未満)徐脈、高血圧症、低血圧、(1%未満)不整脈、二段脈、心血管障害、心停止、出血、頻脈。
3). 消化器系障害:(1%未満)胆汁うっ滞性黄疸、胃腸障害、吐血、メレナ、胃潰瘍、嘔吐、*腹腔内出血。
4). 血液・リンパ球障害:(1~10%未満)白血球増加症、メトヘモグロビン血症、血小板減少症、(1%未満)貧血、凝固障害、白血球減少症、血小板血症。
5). 代謝・栄養障害:(1~10%未満)ビリルビン血症、浮腫、高血糖、低カリウム血症、(1%未満)アシドーシス、高カルシウム血症、高カリウム血症、低カルシウム血症、低マグネシウム血症、低ナトリウム血症、NPN増加(非蛋白性窒素増加)。
6). 神経系障害:(1~10%未満)痙攣、(1%未満)脳出血、脳梗塞、脳血管障害、高血圧、頭蓋内出血。
7). 呼吸器系障害:(1~10%未満)無気肺、低酸素血症、(1%未満)喘息、過換気、肺障害、肺水腫、肺出血、胸水、気胸、喘鳴。
8). 皮膚・付属器官障害:(1%未満)発疹、*皮膚硬化症。
9). 特殊感覚障害:(1%未満)ろう、耳障害、聴覚過敏、網膜障害、*未熟児網膜症。
10). 泌尿・生殖器障害:(1~10%未満)血尿、(1%未満)腎尿細管壊死、*ミオグロビン尿。
*:特定使用成績調査でのみ認められた副作用。頻度は当該調査結果より算出した。
- 高齢者
- 一般に生理機能が低下している。
- 授乳婦
- 妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。
- 小児等
- 〈新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善〉国内臨床試験では、出生後21日齢未満(出生後7日未満に吸入開始し、最長14日まで)の新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全について試験が行われた。海外臨床試験では、出生後7日まで(生後96時間以内に開始し、最長96時間又は生後7日までのどちらか早い時期まで)の新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全について、及び出生後17日齢未満(出生後72時間以内に開始し最長14日間)の新生児について試験が行われた〔17.1.1、17.1.2参照〕。
〈心臓手術の周術期における肺高血圧の改善〉国内臨床試験では、10歳以下の心臓手術を受ける小児患者について試験が行われた〔17.1.3参照〕。
- 取扱い上の注意
- 14.1. 薬剤調製時の注意14.1.1. 本剤治療の不慮の中断を避け、適時に交換できるように本剤の容器残圧を表示し、予備の薬剤を用意しておくこと。吸引、患者の搬送及び救急蘇生法などの用手換気でも本剤を使用できるようにしておくこと。
14.1.2. NO2の吸入を防ぐため、使用開始時には必ず圧力調整器や一酸化窒素ガス管理システム等の中の空気を本剤で置換すること。圧力調整器や一酸化窒素ガス管理システムの使用にあたっては、それぞれの取扱説明書や添付文書を参照すること〔7.1参照〕。
14.1.3. 停電や一酸化窒素ガス管理システムの故障に備え、補助発電機による電力供給や予備の医療機器が利用できるようにしておくこと〔7.1参照〕。
14.2. 薬剤投与時の注意14.2.1. バルブの開閉は静かに行い、使用時は全開にすること(バルブを全開にして使用しない場合、本剤消費に伴い供給圧が低下し、ボンベ残量が十分であっても本剤の供給が停止することがある)。
14.2.2. 本剤は、吸気中NO濃度、吸気中NO2濃度、PaO2、血中MetHb濃度をモニターしながら投与すること。
14.2.3. 血中MetHb濃度は、本剤吸入開始後1時間以内に測定し、以降12時間以内は頻回に測定し、また、24時間以降は少なくとも1日毎に測定すること。
14.2.4. 本剤の吸入濃度は吸気回路の患者近位で測定し、吸気中NO2濃度及び吸気中酸素濃度についても同じ場所でアラームがついたモニタリング装置を用いて測定すること〔7.1参照〕。
14.2.5. 血中MetHb濃度が2.5%を超える場合は、本剤吸入濃度の減量又は投与を中止すること(その後も改善がみられない場合には、必要に応じてビタミンC、メチレンブルー又は輸血で対処すること)。
14.2.6. 吸気中NO2濃度は、可能な限り定常状態において0.5ppm未満を維持すること。吸気中NO2濃度が0.5ppmを超えた場合は、一酸化窒素ガス管理システムを点検し、原因を精査し、可能であれば本剤又はFiO2を減量すること〔7.1参照〕。
14.2.7. 本剤使用中の医療従事者へのNO及びNO2曝露について試験が行われ、NO及びNO2曝露は短時間かつ米国の労働安全衛生局(OSHA)等の基準値より十分に低かったと報告されているが、本剤投与中室内の換気には十分に注意すること。
14.2.8. 医療従事者が本剤に曝露すると、胸部不快感、めまい、のどの渇き、呼吸困難、頭痛があらわれることがある。
14.2.9. 容器からガス漏れのある場合は直ちにバルブを閉じてガスの使用を中止すること。
14.2.10. 安全弁からのガス噴出の場合は、通風の良い安全な場所に容器を移動すること。
14.3. 薬剤投与後の注意使用後はバルブを閉じ、アウトレットキャップをつけること。
本剤は、高圧ガスの状態で充てんされているので、高圧ガス保安法に則り次記のことに注意すること。
20.1. 取扱い時の注意20.1.1. 容器は転落・転倒、打撃などの衝撃を与えないよう静かに取扱うこと。
20.1.2. 本剤の有効成分であるNOは空気中の酸素と結合し、人体に有害なNO2に変化するため、本剤の使用及び保管に際しては換気等に十分注意すること。
20.1.3. 本剤を他の医療用ガスの代わりに使用しないこと。
20.1.4. 容器が転落、転倒しないようロープ等で固定して使用すること。
20.1.5. 容器の授受に際しては、あらかじめ容器を管理する者を定め、その者が立会い、容器の記号番号による管理を行うこと。
20.1.6. 使用に当たっては、ラベル等により本剤であることを確かめること。
20.1.7. 使用に先立って、ガス漏れ、その他異常のないことを確認すること。
20.1.8. NOに適した材質の圧力調整器を使用すること。
20.1.9. バルブ、圧力調整器、一酸化窒素ガス管理システム、呼吸器の回路等、本剤と接触する部分に油脂類、または塵埃等の付着がないことを確かめること。
20.1.10. パッキン類は所定のものを使用すること。
20.1.11. パッキン等を破損する恐れがあるため、バルブや継ぎ手を工具等で締めないこと。
20.2. 保管(貯蔵)時の注意20.2.1. 容器は、「高圧ガス容器置場」であることを明示した所定の場所に、充填容器と空容器に区別し、直立させ、固定して保管すること。
20.2.2. 容器は、直射日光を避け、通風・換気のよいところに貯蔵し、常に40℃以下に保つこと。
20.2.3. 容器置場には作業に必要な用具以外のものは置かないこと。
20.2.4. 容器置場には関係者以外の立ち入りを禁止すること。
20.2.5. 容器は湿気水滴等による腐食を防止する措置を講じること。
20.2.6. バルブは損傷を防止する措置を講じること。
20.2.7. 使用済みの容器は販売業者が回収するため廃棄しないこと。
20.3. 搬送時の注意容器は、直射日光を避け40℃以下に保ち、固定して安全に運搬すること。
- その他の注意
- 15.1. 臨床使用に基づく情報生後4週から18歳までの特発性肺動脈性肺高血圧症で左心不全の既往、生後4週から18歳までの心筋症で左心不全の既往、生後4週から18歳までの先天性心疾患で左心不全の既往の患者を対象とした海外臨床試験において、肺水腫等を伴う心不全が発症するおそれがあると報告されている。
15.2. 非臨床試験に基づく情報15.2.1. ウサギを対象とした試験で、出血時間延長が報告されている。ヒト成人を対象とした試験では一貫したデータが得られておらず、新生児遷延性肺高血圧症におけるプラセボ対照二重盲検比較試験では、出血性合併症が増加することはなかった。
15.2.2. 細菌を用いた復帰突然変異試験では、5000ppmで有意な復帰変異体数増加がみられ、チャイニーズハムスター卵巣細胞を用いた染色体異常試験では1650ppm以上で染色体異常誘発性(構造的染色体異常)を示した。また、マウスリンフォーマTK試験では、4.23mM(2062ppm)以上で濃度依存性のある突然変異頻度増加がみられた。
16.1 血中濃度
〈効能共通〉
吸入されたNOは肺血管から血中に移行すると、速やかにヘモグロビンと結合しニトロシルヘモグロビンを形成し、酸化により硝酸塩及び亜硝酸塩に代謝不活化される。吸入量の73±5%が硝酸塩として尿中に排泄される。形成されたニトロシルヘモグロビンも酸化により、速やかにMetHbに変換される。このようにNOの代謝は速やかにおこるため、NO自体の血中濃度を直接測定するのは困難である。しかし、NOにより産生される血中MetHb濃度がNOの代替指標となると考えられ、海外および国内の試験では、血中MetHb濃度が測定されている。
〈新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善〉
新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の国内臨床試験では本剤を20ppmから開始したが、血中MetHb濃度は全11例で2%を超えることはなかった。
新生児遷延性肺高血圧症と診断された新生児患者では本剤の吸入濃度が高いほど血中MetHb濃度は増加し、本剤を80ppm吸入した36例中13例(36%)で血中MetHb濃度が7%を超えた。血中MetHb濃度が7%を超えた患者から得られた血中MetHb濃度のピーク到達時間は平均10.5±9.5時間であった(外国人データ)。
〈心臓手術の周術期における肺高血圧の改善〉
心臓手術の周術期における肺高血圧の治療のため10~20ppmの用量で実施した国内臨床試験では、血中MetHb濃度は全18例で2%を超えることはなかった。
17.1 有効性及び安全性に関する試験
〈新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善〉
17.1.1 国内第III相試験
在胎期間34週以上で生後7日未満の、新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全患者11例を対象に、臨床試験(INOT12試験)を実施した。本剤20ppmを4時間吸入させ、吸入開始後4時間以降にPaO2>60mmHg又はSpO2>92%の条件を満たした場合は本剤吸入濃度を5ppmに減量した。また、FiO2=0.4~0.6でPaO2>70mmHgになるまで5ppmで維持した。臨床的に安定していることが確認されればNO吸入濃度を徐々に減量しながら終了し、終了前にはFiO2を0.1増量してもよいこととした。投与期間は最長14日間とした。
その結果、有効性解析対象例となった10例において、吸入後30分、1時間及び24時間の酸素化指数(OI)の変動(平均値±SD)はそれぞれ-21.3±37.0、-19.7±37.9及び-27.2±33.0であり、海外臨床試験と同様酸素化の改善を示した。
本試験ではNO吸入開始後、除外基準に抵触していることが明らかになった1例が死亡したが、本剤吸入による副作用は認められなかった。[9.7参照]
17.1.2 海外第III相試験
在胎期間34週以上で生後4日以内の新生児遷延性肺高血圧症患者186例(プラセボ吸入群:89例、本剤吸入群:97例)を対象に、プラセボ対照無作為割付比較試験(CINRGI試験)を実施した。本剤を20ppmより開始し、4時間以降24時間までにPaO2≧60mmHgかつpH7.35~7.55であれば吸入濃度を5ppmに減量し、FiO2が0.7未満となるか、96時間又は生後7日までのいずれか早い時期まで吸入を継続した。ただし、吸入中止後にPaO2≧60mmHgを維持するためにFiO2>0.8にする必要がある場合には、NO吸入を再開した。最初の吸入開始後24時間以内に再開する場合は20ppmで、24時間以降の場合は5ppmで再開した。NO吸入を再開しても効果がみられない場合や(FiO2=1.0でPaO2<60mmHg)、血中MetHb>4%又は吸気中NO2濃度>5ppmの場合はNO吸入を中止した。
その結果、ECMO適用例は、プラセボ吸入群(57.3%)に比較して本剤吸入群(30.9%)で有意に少なかった(P=0.001)。
ECMO適用率
→図表を見る(PDF)
さらに、本剤吸入群ではプラセボ吸入群に比べ、OI、PaO2、肺胞気・動脈血酸素分圧較差(A‐aDO2)、動脈血・肺胞気酸素分圧比(a/A)を指標とした酸素化の有意な改善がみられた(いずれも分散分析でP≦0.001)。
安全性解析対象例110例中61例に副作用が認められた。主な副作用は、血小板減少症19例(17.3%)、低カリウム血症10例(9.1%)、無気肺8例(7.3%)、ビリルビン血症7例(6.4%)及び低血圧6例(5.5%)であった。[9.7参照]
〈心臓手術の周術期における肺高血圧の改善〉
17.1.3 国内第III相試験
心臓手術の周術期における肺高血圧を有する小児患者(0~10歳、12例)及び成人患者(19~57歳、6例)を対象に臨床試験(IK‐3001‐CVS‐301試験)を実施した。小児患者は、グレン手術、フォンタン手術又はその他の先天性心疾患手術を受ける患者、成人患者は左心補助人工心臓(LVAD)装着手術を受ける患者を対象とした。本剤の開始用量は小児では10ppm、成人では20ppmとした。医師の判断により、小児は20ppm、成人では40ppmまでの増量を可能とした。臨床的に離脱が可能になるまで投与を継続した。なお、本剤の投与期間は1.18~55.18時間であった。
成人患者における平均肺動脈圧(mPAP)のベースラインから最終評価時点(24時間以内)までの変化量(平均値±標準偏差、以下同様)は-6.0±6.686mmHgであった。小児患者における補正中心静脈圧(CVP)のベースラインから最終評価時点(24時間以内)までの変化量は-3.1±2.15mmHgであった。PaO2/FiO2比のベースラインから最終評価時点(24時間以内)までの変化量は、成人患者では-7.53±95.856、小児患者では35.49±99.215であった。
安全性解析対象例18例中3例に4件(出血、気胸、血液量減少症、血中ブドウ糖増加)の副作用が認められた。[9.7参照]
17.2 製造販売後調査等
〈新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善〉
17.2.1 特定使用成績調査
総症例1441症例中、本剤との因果関係が否定できない副作用は、63例84件(副作用発現症例率4.4%)であった。主な副作用は、メトヘモグロビン血症18例(1.2%)、脳室内出血12例(0.8%)、肺出血9例(0.6%)であった。在胎期間別の主な副作用は、在胎期間34週以上(839症例)ではメトヘモグロビン血症12例(1.4%)、在胎期間34週未満(579症例)では脳室内出血12例(2.1%)、肺出血7例(1.2%)であった。[9.1.1参照]
18.1 作用機序
本剤は血管平滑筋細胞のcGMP濃度を増加させ、その結果、血管平滑筋を弛緩させることにより、肺血管が拡張し、肺動脈圧を低下させる。
18.2 肺血管拡張作用
NOは吸入投与によりラット(5~40ppm)、ヒツジ(8~512ppm)、イヌ(17~47ppm)及びブタ(5~40ppm)を用いたin vivo低酸素性肺血管収縮モデル、ヒツジを用いたU‐46619誘発肺血管収縮モデル(5~80ppm)並びにラットモノクロタリン誘発肺高血圧症モデル(20~100ppm)において、いずれも最低濃度から迅速かつ濃度依存的な肺血管拡張作用を示した。また、ヒツジ新生児遷延性肺高血圧症モデル(6~100ppm)においてもNO吸入は最低濃度より濃度依存的な血管拡張作用を示し、細菌及びLPS注入によるブタ敗血症/エンドトキシンショックモデルに対しても二相性の肺動脈圧及び肺血管抵抗の上昇を抑制した。
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