未来をまちづくるPLT
少子高齢化、地方の過疎化、医療アクセスの格差――。日本社会が直面するさまざまな課題に対して、住宅・建設業界から新たな解決策が示された。トヨタ自動車とパナソニックの合弁会社として2020年に誕生したプライム ライフ テクノロジーズはこの度、新グループブランド「未来をまちづくるPLT」を発表。パナソニック ホームズ、トヨタホーム、ミサワホーム、パナソニック建設エンジニアリング、松村組のグループ5社の総合力を結集し、これからの時代に求められる持続可能なまちづくりに挑む。
2024年10月22日に開催された発表会では、「地域医療とウエルネスからウェルビーイングなまちづくりへ」と題した有識者座談会も実施され、医療、看護、在宅ケアの第一線で活躍する専門家たちが、これからの医療におけるまちづくりの役割を語り合った。建物の建設にとどまらない、人々の幸せを支える新しいまちづくりの姿が、ここに見えてきた。
医療が直面する課題と新たなまちづくりの可能性
医療はまちづくりの重要な要素の一つであり、人々のウェルビーイング実現の基盤となる。座談会のファシリテーターを務めた朝日エル会長の岡山慶子氏は、「医療福祉と人々が連携し支えあう地域の姿に触れ、これこそがサステナビリティの実践だと実感しました」と、海外で出会った「ヘルスケアビレッジ」の経験を語る。
一方で、日本の医療を取り巻く環境は、大きな転換期を迎えている。東京大学 高齢社会総合研究機構 機構長/未来ビジョン研究センター 教授 飯島勝矢氏は「健康長寿と幸福長寿の両立が重要です。これまでの医療・介護は、果たしてウェルビーイングにつながっていたでしょうか」と問いかける。飯島氏は全国26都道府県104自治体で「住民フレイル*サポーターによるフレイル予防を軸とした健康長寿まちづくり活動」を展開する。これは「専門職が指導するのではなく、住民同士が共感しあいながら高めあう」という新しい形の取り組みで、もともと社会参加の活動をしていなかった高齢者の47%が新たな一歩を踏み出したという成果も報告された。
*フレイル:健康な状態と要介護状態の中間の段階
国際医療福祉大学大学院 副大学院長 福井トシ子氏は、医療アクセスの物理的・経済的・社会的な課題を指摘。「現状の医療は疾病発症後の対応が中心で、健康なときからの健康増進や疾病予防への関与が不十分」と述べる。また、約173万人の看護職のうち110万人以上が医療機関で働く現状に触れ、「地域のかかりつけ機能を果たす伴走型看護の活動拠点の創設」を提案する。
しろひげ在宅診療所 院長の山中光茂氏は、在宅看取り率85%という実績を持つ在宅医療の現場から、企業・自治体・民間・医療機関のさらなる連携が必要と強調。「医療だけでは自宅で最期まで看取る環境もつくれないし、まちづくりもできません。目の前にある痛みや課題を一つひとつ解決していく。その積み重ねこそが重要です」と、実践的なアプローチの重要性を説く。
プライム ライフ テクノロジーズが描く、これからのまちづくり
こうした医療を取り巻く課題に対して、プライム ライフ テクノロジーズは新たな解決策を提示する。同社 代表取締役社長 北野亮氏は、まちづくりの本質について「身近な居住環境の継続的な改善」という有識者らの共通認識を引用しながら、新たな挑戦を説明する。
「物件を引き渡すことが我々のゴールではありません。そこに住まう方に寄り添いつづけることが大切です。人々のライフステージが変わるごとに提供すべきサービスも変化し、世代の入れ替わりにより、まちも生まれ変わっていく。その変化に寄り添いながら、より良いまちに変化させ続けていく。今回の新グループブランド『未来をまちづくるPLT』の策定は、そうした私たちの意思表示です」(北野氏)
その決意を形にしたのが、新グループブランドに紐づく「4つの約束」だ。
第一に、空間資源の有効活用による社会課題の解決だ。遊休地の活用や医療機関・公共施設の移転建て替えを通じて、地域の新たな核となる施設を創出する。
第二に、住みつづけたくなるまちづくり。グループ各社が持つ多様な専門性を活かし、住む人とまちとの最適なマッチングを実現するとともに、地域の価値を継続的に高める取り組みを行う。
第三に、生活の質の向上と自己実現の場の創出。最新技術を活用したバリアフリー化や、人々のつながりを促進する場づくりを通じて、誰もが自分らしく暮らせる環境を整備する。
そして第四に、地域に根ざしたバリューイノベーターとしての役割。地域住民や地元企業との協働を通じて、現場発想での価値創造を目指す。
「未来をまちづくる」というメッセージには、プライム ライフ テクノロジーズの新たな挑戦への意思が込められている。従来の「くらしの"あたりまえ"をかえていく」から、より実業に根ざしたメッセージへと進化を図った背景には、住宅・リフォーム・不動産・建設・デベロッパーという複合的なビジネスを展開するグループの特性がある。
さらに北野氏は、「これまでグループ各社は住宅ニーズおよび建設ニーズを入口としてお客さまを獲得してきました。今後は『まち・くらし』を入口とする新たなバイパスを構築することで、これまでとは異なる顧客層の開拓を目指します」と、新たな事業展開の方向性も示す。その一環として、まちづくり事業者向けの総合窓口を新設。自治体や医療機関など、地域の価値向上を目指すさまざまな主体からの相談に、グループの総合力で応える体制を構築している。
医療を核とした新たなまちづくりの実践「ASMACI神戸新長田」
その具体的な取り組みが、兵庫県神戸市長田区で2023年3月に竣工した複合施設「ASMACI神戸新長田」だ。このプロジェクトの実現に携わったミサワホーム 街づくり事業本部 開発事業部 街づくり・医療介護コンサルタント課 課長 若江暁久氏は、「病院をパートナーに迎え、付加価値の高い複合拠点の開発に一緒に取り組んだ実例」と語る。
きっかけは、特定医療法人一輝会が抱えていた課題だった。老朽化した2つの病院の再編・統合を目指し、数年にわたって移転先を探していた同会は、神戸市の震災復興市街地再開発事業用地の公募情報を知る。「しかし、共同住宅や広場の整備が条件で、病院単体での推進が困難且つ、経済的にも課題がありました」と若江氏は当時を振り返る。
そこでグループ会社のミサワホームが、複合開発のノウハウを活かした解決策を提案。1~5階を病院(荻原記念病院)、6~14階を分譲マンションとする複合施設として計画し、特定建築者に選定された。「複合化により、建築コストやイニシャルコストを削減し、補助金の活用など、投資の効率化を実現しました」と若江氏は説明する。
※特定建築者制度:公募により決定した民間事業者らが、みずからの負担・ノウハウにより計画・建築工事を行うことができる制度
さらに特筆すべきは、地域活性化への貢献だ。施設内に設けられた広場「オーバルパーク」を活用し、医療を軸にしたコミュニティ形成をプランニング。「医療と住宅により、地域の人々のつながりと健康への意識を育む新たなランドマークが誕生しました」と若江氏は手応えを語る。
ASMACI神戸新長田は、人口回復と防災機能強化、地域医療の充実という震災復興事業としての目的も果たしながら、エリアの新たなランドマークとして、暮らしや地域に寄り添う存在となっている。若江氏は「医療においてもコミュニティ形成においても地域の核といえる存在になっています」と、その成果を総括する。これは、先の座談会で専門家たちが指摘した、多様な主体の連携による課題解決の具体例といえるだろう。
地域に根ざしてまちの魅力を高め、人と社会をつなぎ、人々の幸福を支え続ける
「『未来をまちづくるPLT』は創業の原点」と語るのは、同社 代表取締役副社長 西村祐氏だ。新グループブランド策定の準備段階から、若手を集めグループの将来のあり方を議論してきた。その結論として、新築請負だけでなく、多様な暮らし全般に関わる事業者になるべきだという方向性が定まった。その象徴がまちづくりであり、それを通じて社会課題解決を志すという理念が築かれてきた。
「高度経済成長期は家を提供することが社会課題の解決につながっていました。しかし、少子高齢化が進む今、それだけでは解決になりません」と西村氏は指摘する。まちづくりとは身近な生活環境の継続的な改善と定義されることを踏まえれば、リフォームや買取再販を含め、住宅ストックを活かした事業は、人々の幸せを支えつづけることができるはずだ。
座談会で福井氏が示した「伴走型の支援」、山中氏が強調した「目の前の痛みや課題への対応」、そして飯島氏が提唱した「知識や場を提供して共創の仕組みをつくる」という視点。これらはまさに、同社グループが目指す方向性と重なる。
「私たちは地域に根ざしてまちの魅力を高め、人と社会をつなぎ、人々の幸福を支えつづける」――。西村氏の言葉には、従来のハウスメーカーの枠を超え、まちづくりを通じて社会課題の解決に挑戦し続けるという決意が込められている。